二〇〇四年の夏、僕は橋の下で待ち合わせをしていた。
深夜だった。
約束の時間はすぎているが、レイトショーの上映時間にはまだ余裕があった。
僕は蚊に食われないように手足を動かしながら、先輩が来るのを待っていた。
ムエタイ映画「マッハ!!!!!!!!」。
迫力はあるが、よく分からないタイトル。
よく分からないから、安く見られるレイトショー。
理屈はまあ通っている。
その先輩はこの映画がとても見たい、と言った。
その先輩は筋肉好きだった。
僕は映画そのものより、レイトショーを楽しむことのほうが重要だと思っていた。
見に行く当日、一緒に行く予定だった仲間は、バイトがレポートがと一人また一人と脱落し、結局自分とその筋肉好きの先輩だけが行くことになったのだ。
かなり遅れて先輩が橋の下にやってきた。
自転車を飛ばして何とか劇場に到着すると、
「トニー・ジャーが実際にくぐり抜けた実物大の障害」
が置いてあった。
なるほどかなり小さい隙間だったが、すでに日付も変わり、眠気が襲ってきている中でそれはやはりただの隙間でしかなかった。
映画が始まった。意外と人が入っていた。
聞き慣れないタイ語、見慣れぬタイの寒村と都会。
眠ってしまうと思った。
結局一睡もせずに最後までしっかりと見た。
すごい映画だ、と思った。
先輩はトニー・ジャーの背筋に感銘を受けたようだった。
劇場を出るとさすがに眠く、そのまま解散して別々に帰った。
翌朝、先輩は研究室の仲間たちにトニー・ジャーの筋肉について熱く語っていた。
あれから十数年。
先輩は結婚して一児の母となり、僕の結婚式にも家族で来て頂いた。
先輩、今でも筋肉好きですか。
僕はあの時の映画を紹介させてもらいました。
ありがとうございました。(タナカ)
◯◯オさんかwwww小説調で楽しく読ませていただきました!
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