Add書き ー「オールラウンダー廻」関連ー

「”公務員の刺繍”事件」

タナカ大学一年生の春。
なんとなく入ってみた合気道部にも少しずつ慣れてきた頃。
しかし中高男子校だったので男女でワイワイやるにはまだ慣れない頃。

その部では、ユニホームとして”つなぎ”を作ることになっていた。
そしてその”つなぎ”には、個人のニックネームの刺繍を入れることになっていた。
一年生が集まってその名入れについて話し合っていると、誰かが
「タナカはなんか公務員っぽいから、”公務員”でいいんじゃね?」
と言い、
「それいい!」
と他の一年も同意した。

数日後、タナカの手元には明朝体で”公務員”と刺繍の入ったつなぎが届いた。
タナカは合気道部を去った。

—————————————————————————————————

もう十五年ほど前の話だが、今でも武道とか格闘技とかは苦手である。
合気道そのものは興味深かったけれども、他にも「”スイカの皮”事件」など
部員との価値観の溝がどうにも埋めらなかった経験が後を引いている。

話をメグル君に戻すと、この作品に出てくる修斗の選手達は皆、
「なぜ格闘技をするのか」ということを、答えの有る無しは別にして
自らに問いかけている点で価値観を共有している。
価値観を共有しながら、自分らしい格闘スタイルを作り上げ、
そして互いにぶつけあい、高め合う。
そんな彼らは本当に生き生きしている。

刺繍やスイカにこだわらなければ、もっと本質的な共感が生まれたら、
もっと合気道を、武道を、格闘技を楽しめたのかもしれない。

しかしながら、ドラマ『世界で一番パパが好き』で明石家さんまが
「心の傷に時効は無いんですよ!」と言っていたように、あの「事件」は
これからも僕を武道から遠ざけるだろう。それでいいのだ。(タナカ)

Add書き ー「マッハ!」関連ー

二〇〇四年の夏、僕は橋の下で待ち合わせをしていた。
深夜だった。
約束の時間はすぎているが、レイトショーの上映時間にはまだ余裕があった。
僕は蚊に食われないように手足を動かしながら、先輩が来るのを待っていた。

ムエタイ映画「マッハ!!!!!!!!」。
迫力はあるが、よく分からないタイトル。
よく分からないから、安く見られるレイトショー。
理屈はまあ通っている。
その先輩はこの映画がとても見たい、と言った。
その先輩は筋肉好きだった。

僕は映画そのものより、レイトショーを楽しむことのほうが重要だと思っていた。
見に行く当日、一緒に行く予定だった仲間は、バイトがレポートがと一人また一人と脱落し、結局自分とその筋肉好きの先輩だけが行くことになったのだ。

かなり遅れて先輩が橋の下にやってきた。
自転車を飛ばして何とか劇場に到着すると、
「トニー・ジャーが実際にくぐり抜けた実物大の障害」
が置いてあった。
なるほどかなり小さい隙間だったが、すでに日付も変わり、眠気が襲ってきている中でそれはやはりただの隙間でしかなかった。

映画が始まった。意外と人が入っていた。
聞き慣れないタイ語、見慣れぬタイの寒村と都会。
眠ってしまうと思った。
結局一睡もせずに最後までしっかりと見た。
すごい映画だ、と思った。
先輩はトニー・ジャーの背筋に感銘を受けたようだった。

劇場を出るとさすがに眠く、そのまま解散して別々に帰った。
翌朝、先輩は研究室の仲間たちにトニー・ジャーの筋肉について熱く語っていた。

あれから十数年。
先輩は結婚して一児の母となり、僕の結婚式にも家族で来て頂いた。

先輩、今でも筋肉好きですか。
僕はあの時の映画を紹介させてもらいました。
ありがとうございました。(タナカ)

Add書き ー「ひとり旅」関連

 それから吉村昭の『彰義隊』を読んでみた。
 恥ずかしながら、新撰組は知っていたけどこちらの存在は全く知らなかった。ざっくり説明すると、徳川慶喜を守ろうとする有志の者たちが作った部隊で、新政府軍と上野で決戦を繰り広げた、言わば江戸レジスタンスだ。

 決戦、敗退、奥州への潰走と、結果だけ見ると彼らは負けてしまった。まあ事実だからしょうがないのだけれど、それでも本書を読むと”結果”は膨大な”事実”の一面であることを思い知らされる。そして、事実もまた、多くの人の想いが重なった一瞬を切り取った事象でしかない、ということも。

 隊員たちは、徳川慶喜が水戸へ移送された後、江戸にいた皇族の北白川宮能久親王(輪王寺宮)を、混乱の江戸から何とか逃がそうと奔走する。輪王寺宮もまた、江戸の民を守りたい一心で朝廷と交渉するも逆に”朝敵”とみなされてしまう。彼らを突き動かしているのは、それぞれの「感謝」や「恩」であり、「抵抗」や「憎しみ」はその二次産物なのだ。

 やはり、吉村先生が事実に固執するのは、事実の裏に隠された本当の人間性を知りたいからなんだろう。『戦艦武蔵』や『高熱隧道』のように何となく知っている話よりも、全く予備知識のなかった『彰義隊』だったからこそ、そのことを強く感じることができて良かったなあ、と思うのである。輪王寺宮のその後はけっこう意外な展開を迎えるので、興味のある方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

 ちなみに、Kindleで漫画「るろうに剣心」を読んでいたら、少年剣士弥彦の父はまさに彰義隊の一員として義に殉じたという設定で、自分の中の幕末像がどんどんアップデートされていくような感じでとても楽しい。遅すぎるような気もするけど。(タナカ)

Add書き ー「海ちゃん、おはよう」関連

 子供の誕生を前にして男というものはすぐに父親になれないという話がある。
 よくよく納得できる話だが、女性側のこんな心境をつづったエッセイがあった。

実際、わが子に始めて授乳したときの、あの恐ろしさはなんだろう。(中略)自分の無力さを突き付けられるような、人間としての最も重い責務を背負わされたような、途方もない気持ちに陥るのだった。もしかしたらそれは、悲しみと名づけてよい感情だったかもしれない。

 小川洋子の『深き心の底から』からの抜粋である。
 これを読んで僕はなんだか少し安心したのだ。母親だってうろたえるんだ、と。
 たしかに”子供をもつ親”に変化していく実感は女性のほうがリアルで段階的だと思う。日に日に大きくなるお腹の子の重み…それは女性でしか得られない至福の時間、というようなイメージが何となくあった。
 しかし”恐ろしさ”、”悲しみ”という言葉で、生まれた子と向き合うことも母親にはあり得るのだ。誤解のないようにしておくと、小川先生は出産に悲嘆していたのではなく、子供が無条件の喜びを与える存在ではないことをすでに予感していたのである。
 子供の可能性の大きさにたじろぐのは、父も母もきっと同じなのだ。
 要は、その子と向き合い続ける覚悟をするかどうかであって、男には海ちゃんの父イサム君のような不器用な覚悟も時にはあるだろうから、世の妻や母の皆さんにはどうぞおてやわらかにお願いしたいと思った次第。
 感想回をアップした後にタイトルは「そして、父になる」でも良かったかなあと思ったのだが、結局やめた。同名の映画は絶対に見たら泣くと思ってまだ見ていない。いつか紹介できる時が来るといいですなあ。(タナカ)

Add書きー「大泉エッセイ」関連

 現状維持というキーワードから僕は福岡伸一氏の著書『動的平衡』を思い出していた。
 福岡氏は『生物と無生物のあいだ』で有名な生物学者であるが、その『動的平衡』の中では、生命活動というものは常に何かが入ったりまたは出ていったりしているが、見た目には大きな変化が起こっているようには見られない、動的であるが平衡状態にあるものである、と述べていた。その概念は「八年で人間の全ての元素が入れ替わる」と言っていた高校生物のM先生の記憶とあいまって、僕の中ではかなりしっくりくる概念として心に残っていた。
 ここで大泉氏が「現状維持でいいと思った男に現状維持ができるのか」と言ったことに関して、僕は現状維持は平衡状態と同じなんじゃないか、と思った。多くのことを得て、多くのことを失いながら、それでも前向きに生きていく姿、しかしながら他人からは「いつもの大泉君」と思われる姿、それが彼の言う本当の現状維持なんだろう、と。

 実際、このエッセイを読むまで僕の中の「大泉洋」のイメージは良くも悪くも維持されていたし、大泉氏の「楽しみたい、楽しませたい」という欲望(気持ちというより、欲望)がある限り、そのイメージは「現状維持」され続けられるだろうと思う。動的平衡状態の生命体として、その姿は文字通り生き生きとしているに違いない。これからの活躍にますます注目したいところである。

 ちなみに感想回冒頭「なりたくん!」と言ったのは本当は大泉洋のモノマネのつもりだったのだが藤村Dだと勘違いされてしまった。僕のモノマネの精度の低さ、そしてナリタ氏のストライクゾーンの狭さはホンタナ開始以来全く改善されていないが、これにめげずに続けることでホンタナの現状維持ができることもまた事実なのである。(タナカ)

2014.11.18 お休みのお知らせ

今回も事前告知はありませんでしたが、今週と来週の二週間はホンタナの配信をお休みさせていただきます。
次回配信は、師走の12月2日です!どうぞお楽しみに!

2014.5.6 ホンタナ1週お休みのお知らせ

事前告知がなく申し訳ありませんが、本日はゴールデンウィークということで、本棚の配信をお休みさせていただきたいと思います。来週はいよいよホンタナ3周年記念スペシャル回をお送りしますのでどうぞお楽しみに!

2013.09.03 ホンタナ夏休みのお知らせ

いつもご清聴いただきありがとうございます。事前に放送内で告知することができませんでしたが、今週・来週と夏休みをいただき、更新をお休みさせていただきますのでご了承ください。次なる内容でまた9/17にお耳にかかりたいと思います。どうぞ宜しくお願いします。

参考書籍

「ブラックジャックによろしく」佐藤秀峰
癌医療編は5巻からですが、新シリーズも含めどのテーマも鬼気迫るものがあります。

2013.03.12 更新お休みのお知らせ

いつもご清聴いただきありがとうございます。事前に放送内でアナウンスすることができませんでしたが、今週は更新をお休みさせていただきますのでご了承ください。次なる内容でまた3/19にお耳にかかりたいと思います。どうぞ宜しくお願いします。

2013.3.5 お化け屋敷的小説 〜「悪の教典」の感想から〜

次から次へと悪事を働く教師を描いた本作。高校という身近な舞台を描き、誰でも分かりやすい展開が”売れた”理由であると感じたナリタ。間口を広げ支持を得ることがミステリとして果たして良いことか否か?設定そのものを楽しむ作品に謎解きの醍醐味を求めることは酷なのか?「俺だったらこうする」と息巻くタナカの反論やいかに!
このエピソードを聴く
15:40- 「私も投稿してみました」踊る!さんま御殿
29:20- 「悪の教典」感想

2013.2.26 「悪の教典」貴志祐介

今回はあえて「このミステリーがすごい!2011年国内部門第一位」、「週刊文春2010年ミステリベスト10国内部門第一位」、「第1回山田風太郎賞」、および「早川書房「ミステリが読みたい!2011年国内総合第2位」受賞作の堂々たる人気小説、貴志祐介の「悪の教典」を取り上げます。映画化までされた受賞歴多数の話題作を取り上げてタナカは何を想うのか。お楽しみください。
このエピソードを聴く
17:39- 「私も投稿してみました」爆笑問題カーボーイ 担当大臣のコーナー
36:47- 「悪の教典」紹介

 

2012.2.19 省略とリアリティ・高校生の恋愛・モデルルームのスリッパ 〜「宙のまにまに」の感想から〜

蒼栄高校天文部を舞台に描かれる「宙のまにまに」のような学園青春コメディにおいて、高校生らの恋愛感情はどのように描かれるべきか(または描かれないべきか)、そこに関わる省略と強調のあるべき姿について思い思いの意見を戦わせるタナカとナリタ。物語のリアリティと感情移入のしやすさはどのような細部描写によって支えられているのか、などのトピックにも話は広がります。お楽しみ下さい。

このエピソードを聴く
27:32〜古典コテン 夏目漱石「夢十夜」
45:01〜「宙のまにまに」感想

2013.1.22 多様性はヒーローを集めにくい 〜「アベンジャーズ」の感想から〜

マーヴェルヒーローズが集結する一大イベント、「アベンジャーズ」のようないわば”お祭り”的映画は日本では成り立たないのであろうか?日本の映画・アニメは世界観が多様化しすぎていて、目的や場をひとつにすることが難しいのではないか、とナリタは分析するが…。コーナーは引き続き「投稿してみました」、今回はタナカも参戦してみました!
このエピソードを聴く
11:00〜 「私も投稿してみました」
29:00〜 「アベンジャーズ」感想回

ちなみに先週ナリタが「安住紳一郎の日曜天国」に採用されてゲットしたノートがこちら↓

謹賀新年

明けましておめでとうございます。
昨年はリスナーの皆様、そしてゲストに来ていただいた皆様に、大変お世話になりました。
本年も適度に力をいれつつ、しかしいつもの調子でやっていきますので、どうぞよろしくお願い致します。
配信は1月8日(火)より開始いたします。

読み物としてのそよ風 ~「わたしのマトカ」の感想から~

おとなしさの中に、はじけたがる気質が見え隠れするフィンランド人。彼らとのマトカを経て帰国した著者は、日本での生活にも新しい視点を持つようになります。空気が動くことで風を感じられるように、人が動き旅をすることで感じられる”良さ”について語ってみました。最後に告知ありますのでお聴き逃しなく!
このエピソードを聴く