2012.4.3 出会ってしまうということ ~「ラヴァーズ・キス」の感想から~

「ラヴァーズ・キス」は一組の男女が限られた時間の中でお互いをいたわり愛しあう様を美しく描く恋愛讃歌の物語であると同時に、まさにその二人の背後に叶わぬ恋を抱えながらただ相手を想い続ける4つの失恋ストーリーを不可分の要素として内包しています。恐らく永遠に振り向いてもらえない相手を人は黙って想い続け、いたわりつづけることができるのか。考えさせられます。

関連書籍

併せてどうぞ!

「海街Diary」吉田秋生
こちらも「ラヴァーズ・キス」と同じ世界観で鎌倉を舞台にした作品です。両親が出て行った家で暮らす社会人の三姉妹のもとに、中学生の異母妹がやってくるところから物語は始まります。複雑な家庭環境、大人の失恋、不器用な初恋、などなど、それぞれの姉妹が不安や悲しみにもまれながらも、鎌倉の美しい景色の中で仲良く(?)家族としての生活を共にしていく日々が描かれます。「ラヴァーズ・キス」との共通のガイドブック「すずちゃんの鎌倉さんぽ」と併読すれば、より鎌倉の舞台設定を楽しむことができます。

2012.3.27 「ラヴァーズ・キス」吉田秋生

もうすぐ春ですので、ひさしぶりに恋愛モノを取り上げます。とある鎌倉の高校を舞台にくりひろげられる男女の恋模様・・・よくある設定ですが、面白いことに途中から物語の視点が変わります。すると見えてくる各人の思惑、そしてそれぞれの恋。物語の深みが一気に広がり、”出逢ってしまった”喜びと苦しみが爽やかに描かれます。名作「BANANA FISH」にも通じる、人と人とがつながる難しさ、そして素晴らしさを感じさせてくれる作品です。

2012.3.6 良くも悪くもリーダーシップ ~「Heaven?」の感想から~

たとえ困難でも進むべき道を示し、人々を導く存在。この物語の裏主人公ともいえるオーナー黒須仮名子は、名実ともに「ロワン・ディシー」のリーダーであるといえます。しかしながらその信念は、自分が食べたいものを出すという、接客理念とは正反対のものでした。それでも従業員はオーナーに魅かれ、客はレストランに魅かれていきます。オーナーのリーダーシップとは何なのか?そこに哲学を求めるナリタ、理由のなさに価値を見出したいタナカ。それぞれの視点から、意外と(?)示唆に富んだ本書の面白さを、するめのように噛みしめていきます。

2012.2.14 好きなものは好きといえる気持ち抱きしめてたい〜「自分へのごほうび」の感想から~

この本に収められた様々な「自分へのごほうび」エピソードは住吉美紀さんの「好き」レーダーの柔軟さ・きめ細かさのようなものを如実に表していますね。好きなものは素直に好きと感じて喜ぼうという彼女流の生き方のエピソードに触発され、タナカ・ナリタも自分たちの好き嫌いをあれやこれやと好き勝手論じる回になりました。春先と花粉症と空気清浄、クシャミと笑い方の個人史、バナナマン日村勇紀と笑い方の伝染、ヨガと集中と達成感、キンモクセイの香りと見栄、セックス・アンド・ザ・シティとブリジット・ジョーンズの日記にまつわる(根拠なき;伊集院光的)非モテ説、面白い・つまらないと伝えることの責任と1Q84とナポレオン狂、自分の好き嫌い/興味への好き嫌い/興味、人の琴線の個別性・主観性――これらのキーワードのどれかひとつにでも興味を持たれた方、どうぞ聴いてみて下さい。(ちなみに当然ですがタイトルは槇原敬之「どんなときも」の歌詞より一部抜粋でした)

2012.1.17 見えないものが当たり前にいる風景 ~「ぎんぎつね」の感想から~

神社系マンガ「ぎんぎつね」の感想回です。落合さよりさんの溢れ出る神社愛が絵のタッチや物語の描き方などに如実に現れている作品でした。目に見えない信仰の対象をあえて愛くるしいぬいぐるみのような姿の神使たちによって擬人化させるというのは神社愛好家としては冒険的な試みだったのだろうと想像しますが、そのようにして描かれた見えざるものが当たり前のように人間とともに悩んだり迷ったり泣いたりしながら生きているのをここまで当たり前のように描かれると、まるでそんな日常が本当に我々の生活の奥行きとして広がっているのかもしれないというような不思議な気分になるマンガです。読んだ後で神社に行ったら少しお参りをする感覚が少し変わるかもしれませんよ。

2011.12.6 ”間”と”雰囲気” ~「かもめ食堂」の感想から~

ゆるやかながらも独特の世界観をもつ「かもめ食堂」。すっ、と心に届く作風を共有しつつも、小説と映画それぞれの特徴を生かした作品に仕上がっていることに感心するナリタとタナカ。文章と映像、登場人物とそれを演じる俳優といった違いだけではない、”間”や”雰囲気”をつくりだす要素とは何なのか?関連作品を交えながらその魅力に迫ります。

2011.11.22 優しく生きるとは何か ~「小暮写真館」の感想から~

『小暮写眞館』の帯には「数かぎりない伏線の終着駅 小説史上最高に愛おしいラストにあなたは何を思う、誰を想う?」とありますが、この物語で描かれる数々の伏線はそれぞれが人々の優しさのあり方と、それぞれが優しくあろうとするが故のすれ違いや摩擦を巡るストーリーを綴っていると思います。言いたいことをあえてぐっと飲み込む優しさ、誰かを傷つけようともあえて立ち上がって想いを吐き出す優しさ、約束を貫く優しさとあえて約束を括弧に入れる優しさ、誰かのためを想いあえてその人から離れようとする優しさと噛み付いても傷つけても一緒にいる優しさ、等々。今夜はそんな優しく生きることの難しさについてまたこの二人がああでもないこうでもないと各々の思いを語ります。

2011.11.15 「小暮写眞館」宮部みゆき

久しぶりに女流作家の作品を紹介します。ユニークな花菱一家が移り住んだ「写眞館」。そこから広がる様々な出来事が、人間の強さと弱さ、優しくすること、傷つけることを丹念に描き、かつ丁寧に収束していく構成が見事な、著者ならではの力作。「物語のすべてが詰まった700ページの宝箱」といわれるのも納得です。フリートークがやや長めになって申し訳ありません。

2011.9.20 第19回「ローレライ」樋口真嗣

映画原作の「終戦のローレライ」ではなく、あえて映画版の「ローレライ」を紹介したいと思います。第二次世界大戦末期、極秘に用意された潜水艦によって起死回生の大作戦に挑む人々を、斬新なアイデアを盛り込んで描いた意欲作。終戦を目前にそれぞれの思惑が交差しつつ、”大切なものを守ること”をつらぬく魅力的な人間描写は、一見の価値ありです。そして最近公開された映画版「SPACE BATTLESHIP ヤマト」との意外に多い共通点とは?最後までお楽しみください。